教室紹介

 

 臨床検査医学は、臨床検査を応用して、病態の解析、新しい臨床検査法の開発と応用、臨床検査の解釈と意義づけ、あるいは臨床検査を中心にした診断支援システムの構築などを行う学問である。臨床検査は、現代の医学医療の実践において不可欠の手段となっており、その有用性をさらに高めると同時に絶えず改良し、新たな手法を開発していくことが臨床検査医学に課せられた重大な使命であると言える。当分野では、白血病を始めとする悪性腫瘍の病態解析、DNA診断を用いた感染症や悪性腫瘍の新しい臨床検査法の開発の研究に取り組んでいる。

 

(1)教育

 大学院学生に対しては、臨床検査医学を応用して悪性疾患や感染症などの疾患の病態を解析し、臨床検査の新しい開発を目指した研究(研究の項を参照)を指導している。

 修士課程学生全員に対して、臨床検査医学総論の講義を通して、診療における臨床検査の意義とその実際について概説し、医療現場で用いられている染色体・遺伝子検査について実例を示して解説している。また、7月の病院実習(2週間)も担当している。

 医学部医学科学生に対しては、臨床検査の目的・原理・方法・手技・解釈などを、プレクリニカルクラークシップなどにおける実習、講義、Reversed CPCを通して教授している。そして、臨床医学を実践するに当たって、臨床検査を有意義に活用できる知識・能力を養うことを目標としている。

 医学部保健衛生学科学生に対しては、臨床血液学講義や病院実習(3ヶ月)を担当している。

 

(2)研究

 研究では、臨床検査医学を応用しての各種疾患の病態解析、新たな臨床検査法の開発と応用が主なテーマである。以下に現在行っている研究プロジェクトを紹介する。

1)白血病細胞増殖機構の解析

 白血病は白血病細胞の無制限の増殖と正常造血機能の障害を主徴とする。白血病細胞の増殖は、その細胞集団の中のごく少数の白血病幹細胞によって維持されている。白血病に対する有効な治療法の開発には、白血病幹細胞の自己再生能や増殖のメカニズムの細胞・分子レベルでの病態解析が必要である。われわれはこれまでに、白血病細胞の自己再生と増殖における種々のサイトカインの作用を、細胞・分子生物学的手法を用いて解析し、白血病細胞が正常造血細胞を凌駕して増殖する機構を解明してきた。また、白血病の研究モデルとして有用な細胞株を、患者白血病細胞から樹立し、国内外の研究機関に提供してきた。さらに、抗白血病薬や分化誘導剤の薬剤感受性試験の研究を行ない報告してきた。現在は造血幹細胞の自己再生に重要な役割を持つNotchシグナルの、白血病細胞の増殖における役割に焦点を当てて研究している。われわれは世界に先駆けて、患者白血病細胞にNotch蛋白やNotchリガンド蛋白が発現していることを報告し、Notchリガンド反応性の細胞株を樹立した。さらに白血病細胞の増殖や分化に対するNotchリガンド蛋白の作用やその分子機序を報告した。Notchリガンド蛋白は今後、再生医療や白血病治療に応用される可能性があり、国内研究機関や企業の研究部門と共同研究を進めている。また、Notchシグナルを阻害することによる、白血病に対する新たな分子標的治療法や、その薬剤感受性試験の開発に取り組んでいる。最近は、Notchと同様に幹細胞の制御に重要なWntシグナルやHedgehogシグナルについても研究を行っている。

 

2)遺伝子診断法の臨床検査への応用

 近年、多くの悪性腫瘍や感染症などの疾患が遺伝子レベルで病態が解釈されるようになった。しかも、診断そして治療へと応用されている。こうした研究の発展を受けて、遺伝子診断法の臨床検査レベルへの応用を検討することが重要である。われわれは簡便で普遍性が高く、かつ精度の高い検査法の開発を目指している。造血器腫瘍の新たな遺伝子検査の開発やその精度管理法、EBウイルスやHHV8など腫瘍性疾患に関与するウイルスの検出および腫瘍発症への役割の研究、真菌・ウイルス・原虫など通常の検査法では検出が難しい病原体の検出法などの研究を行なっている。

 

3)残存微量腫瘍細胞の検出法の開発

 癌治療の目標は、腫瘍細胞を根絶して患者を治癒に導くことにある。手術、化学療法、放射線療法、免疫療法などにより成果が揚げられているが、なお再発の問題が残されている。再発を防ぐには、残存する腫瘍細胞を早期に検出し、治療することが重要である。そこで、治療後の残存微量腫瘍細胞を的確に判定しうる検査法の開発を研究している。特に、血清検体を用いた、腫瘍細胞から血液中に遊離した遺伝子断片の検出を行なっている。

 

(3)臨床上の特徴

 臨床各科との協力のもとに、臨床検査の解釈、精度管理、新しい検査法の導入、予防医学、遺伝子検査法の開発などを行っている。また、臨床検査に関わる各診療科からの問い合わせ・相談に応じ、診療支援を行っている。

------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

    過去に当院(血液内科)を受診して検体残余の研究利用の同意をいただいた患者さん、もしくはご家族の皆様へ

 

当研究室では、医学部倫理審査委員会の承認のもとに、下記のような血液腫瘍に関する研究を行っています。これらの研究は、当院(血液内科)で診療を受け、検査を終了した血液などの検体の残余の研究利用についての同意をいただいた患者さん(結果として血液腫瘍ではなかった患者さんを含みます)を対象としています。

 

この研究結果の検証などの目的で、過去に検体残余の研究利用の同意をいただいて、当研究室に保管してある検体を使用することがあります。検体の情報として、疾患名とその病型、病期、血液や骨髄での腫瘍細胞の比率、投与された抗腫瘍薬名を用いることがあります。検体は匿名化されており、個人を特定できるような情報が公表されることはありません。同意の撤回も可能です。ご質問がありましたら、研究の実施責任者にお問い合わせください。

 

研究責任者:東京医科歯科大学 臨床検査医学

     医学部附属病院 検査部(血液内科兼) 東田 修二

            113-8519 東京都文京区湯島1-5-45 

            メール:tohda.mlab@tmd.ac.jp

            電話: 03-5803-5334(ダイヤルイン)(平日8:3017:30

 

利益相反:学会発表や論文の公表にあたっては、試薬と資金の供与について公表し、研究の透明化を図ってまいります。本研究の実施にあたっては、本学利益相反マネジメント委員会に対して研究者の利益相反状況に関する申告を行い、同委員会による確認を受けています。研究テーマ1で小野薬品工業株式会社から効果の解析を依頼された化学物質については、その化学物質と研究費を供与されますが、解析結果が同社に有利になることがないように運用されております。

 利益相反とは、研究者が企業など、自分の所属する機関以外から研究資金等を提供してもらうことによって、研究結果が特定の企業にとって都合のよいものになっているのではないか・研究結果の公表が公正に行われないのではないかなどの疑問が第三者から見て生じかねない状態のことを指します。

 

苦情窓口:東京医科歯科大学医学部総務掛

 03-5803-5096(対応可能時間帯:平日9:0017:00

 

 

研究テーマ1 「血液腫瘍の細胞増殖の仕組みの解明と薬剤感受性検査の開発」

        承認番号:M2000-818

        研究期間:東京医科歯科大学医学倫理審査委員会承認後~2024331日まで

 

 白血病やリンパ腫などの血液腫瘍の診断法や治療法は、年々進歩していますが、まだ十分ではありません。治癒率を高めるには、腫瘍細胞がどのような仕組みで増えるのかを理解し、腫瘍細胞の個性を調べ、それに応じた治療法を開発する必要があります。私たちは患者さんの腫瘍細胞を培養することなどによって、細胞が増える仕組みを研究しています。

 抗腫瘍薬の効果は、同じ病気であっても、患者さんによって差があり、投与前に有効性を予測することは困難です。薬剤感受性検査とは患者さんの血液から集めた腫瘍細胞に、試験管などの中で薬をふりかけて培養し、効果を調べます。現在は的確に予測できる検査法は確立していませんが、より正確に予測できる検査法が開発されれば、効果を期待できる薬を選んで投与することが将来は可能になります。そのための研究を行っています。

 

 

研究テーマ2 「血液腫瘍の新たな遺伝子検査法の開発」

        承認番号:M2000-824

        研究期間:東京医科歯科大学医学倫理審査委員会承認後~2024331日まで

 

 白血病、骨髄異形成症候群、多血症などの血液腫瘍は、血液や骨髄液の標本の顕微鏡での観察などで診断されますが、診断確定が困難なこともあります。そのような場合には遺伝子検査が有用です。遺伝子検査は診断だけでなく、より有用な治療法の選択や、治療後にわずかに残っている腫瘍細胞を検出にも有用です。しかし、遺伝子検査は健康保険が適用される項目が限られています。

 私たちは、診断には重要だが、標準的な検査法が確立していない遺伝子異常に対する遺伝子検査法の開発の研究をしています。私たちはこれまでに、細胞株などを用いて遺伝子検査法の研究をしてきました。こうした検査法が患者さんの細胞でも有用か、よりよい検査法はないか、などを検討しています。なお、遺伝子検査といいましても、親子間に遺伝する病気や個人の生まれつきの性質を調べる検査ではなく、腫瘍細胞に生じた変化を検出する検査です。

 なお、この遺伝子異常の働きを確かめるため、対応する細胞蛋白質を調べたり、細胞を培養することもあります。